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2025大阪記

前編 万博の巻

長い長い前段
 前提として、俺は大阪・関西万博についてぜんぜんテンションが上がっていなかった。
 その理由は遠隔地であるというコトばかりではない。

 周りのおじいちゃんたちは口をそろえて「親に連れてってもらった万博」の思い出を語る。それは素晴らしい郷愁である。あの日大阪に集まった未来技術には無限の展望があっただろう。
 しかしもう、人口ブーストからの経済発展は起こり得ない。我が子を連れて行っても、大人たちは明るい未来を示すことができない。せめて持続可能であれ――そういった祈りではテンションが上がらない。

 だから東京五輪と同じく、「東京に新しいタワー建てて、オリンピック呼んで、新しい東西交通を敷いて、大阪で万博やればまた高度経済成長がやってくるんだもん!」という高齢者のカーゴカルトだろう、真面目に取り合うだけバカバカしい、そんなふうにすら思っていた。


 だが……開幕まであと数か月というところで、考えが変わった。
 マスコミは開幕前の外国パビリオンの情報を持たない。当時マスコミが盛んにやっていた万博の情報はほとんどが企業の広告であり、俺は万博の本質を見誤っていた。
 日本の治安、日本の衛生基準で万国の文物に触れられる機会は希少である。ガンダムとかモンハンはいつでもその辺にあるが、オフチョベットしたテフをマブガッドしてリットにしたものを食べられるのは生涯でここだけであろう。あっ……エチオピアブースにはインジェラが食べられるコーナーはないんですか? まあモノの例えだよ。


 そういうことで、我々は万博へ向かうことを決めた。
 チケット自体は開催よりだいぶ前に取ったのだが、取ったあとの作業は極めてめんどくさく、そもそも開催前で具体的なコンテンツのわからない各国のパビリオンを予約するのは困難を極めた。公式サイトの各パビリオン紹介ページには、なんらかの調和がなんらかの持続可能性を拓くことが謳われているばかりで、具体的な情報はほとんどなかった。
 なので我々は、入場時間とそれに通じる交通手段のみを予約し、あとはその場の流れに任せることに決めた。情報がないので「何があってもここだけは見たい」というパビリオンもないし、情報があってもパビリオン予約枠の争奪戦に費やす労力は甚大だし、予約時間を気にして行動に制限がかかるのも良くない。

 入場予約でも、予約に挑んだワイフによると、公式サイトの予約状況の表示が時々刻々と変化して全く信頼ならない状態であり、ネットにも西ゲートがいいだの東ゲートが実は空いてるだのと情報が錯綜していてどうしようもない。
 最終的にワイフの決断により「新大阪からエキスポライナーで桜島駅へ直行、桜島から西ゲートまでのバスを関西MaaSで予約して西ゲートから入場が丸い」という形になったが、これみんなどうやって決めてんの?

 というか、ネットに情報が多すぎるんだよな。公式の出す情報がわかりにくいのと合わさって「帰りの混雑を避けるためにこれをすべき!」だの「朝イチにやるべきことはコレ!」だのとあらゆるハウツーが垂れ流されていて、それをいちいち真面目に取り合っていたら何もできなくなってしまう。「調べない」「無視する」というのもいまやメディアリテラシーになってしまったのではないか。


 なので、これから万博に行こうという人は、この先のことを一切参考にしないでもらいたい。
 万博はローグライクである。俺が行った万博とお前が行くであろう万博はダンジョンのSeed値が異なる。俺が「16階のモンスターハウスで妖刀かまいたちが出た」と言ったのを聞いて16階を探索するアホになるな。自分が置かれた状況と目的だけを見つめて決断しろ。


 読み飛ばしている人もいるだろうから、最後にもう一度はっきり言っておく。
 万博はローグライクである。これから書くことを一切参考にするな。
 お前がする決断は常に最善のものだ。知らない奴の判断に惑わされるな。

俺たち in 夢洲
 朝9時30分。西ゲートに降り立った我々は、謎のポーズで屹立するガンダムを拝みつつ、木製リングの下にたどり着いた。
万博入口
 リングの迫力はすごい。木でできた巨大建築物というだけでテンションがあがる。さっそく登ってみたかったが、このリングは一周2kmあり、散歩だけで体力を使い果たす可能性がある。後にしよう。

 我々はとりあえず会場の中央に向かって歩き出したが、実のところリングの下こそがメインストリートであり、パビリオンはリングに向かって建っているものが多かった。
 なお我々が行ったタイミングは「万博リングの虫がすごい」というニュースが上がった直後だったが、虫は海側のゾーンで蚊柱が立っている程度であり、海側のゾーンはパビリオン群とはほぼ関係ない。ネットニュースは気にするだけ無駄である。
サウジアラビア館
 最初にワイフの希望するサウジアラビア館に入った。これは後からリング上で撮った写真なので混雑しているが、行ったときは開場直後でまだ人がほとんどおらず、並ばずに入れた。ログインボーナスか。
 世界観の構築にカネがかかっているのが感じられ、やはりオイルマネーは素晴らしいという思いを新たにした。ただちょっと「ヒューマンフォールフラットみてえだな……」って思っちゃう認識のバグがあった。

スペイン館
 そのあとすぐ、我々は隣のスペイン館に吸い込まれていった。「予約不要、待ち時間ゼロ」と書かれた札を持った人がいたからだ。時刻はすでに10時30分だが、まだログインボーナスが発生中らしい(午後に見たら長蛇の列だった)。
 海洋国としての歴史と海の持続可能性を静かに説いたあと、突然情熱の国スペインを表現し始める緩急の効いた展示だった。

モナコ公国館
 娘氏が惹かれたモナコ公国館は小さいオシャレなパビリオンだった。モナコ公国でどうやって森林の動物を守ってるんだよ、あそこ港しかないだろ、と思っていたが、普通にフランスでやってるようだ。
 屋外展示がけっこうあったが、あれらは日本の厳しい気候を半年戦い抜けるのだろうか。心配だ。


 この辺りでログインボーナスが途切れ、大人気パビリオン以外でも10~30分くらいは並ぶ必要が出てきた。キッザニアのように待ち時間が一覧できるアプリがあると良いのだが、公式アプリ「EXPO 2025 Visitors」は直近のトイレを表示するのにも手間取る有様なので、そのような機能は望むべくもない。

 11時を過ぎ、我々は何か食べられるものを求めてベトナム館に並んだ。
 我が国においてベトナム料理はそこまで稀少性はないが、各国パビリオンの料理のうち「なんかしょっぱいものが食いてえな」と思った時の選択肢は少ない。甘いものは各国のカフェにいろいろある。
 ただ、基本的にはカロリーはカロリーメイトで摂るものと思って準備して行った。前段に反してハウツーめいたことを書いてしまったが、とにかくどこもめちゃめちゃに混むので、思うようにカロリーが摂れていないと判断が狂う。これは普遍的な情報です。
ベトナム館
 ベトナムのミルクティー、悪魔のように甘い。台湾を思い出した。


 それほど混んでいなかったら見てみたかったトルクメニスタン館と北欧館を横目で見て、スゴイ行列ができているのを確認し、やめた。
 5月とはいえ日が高くなるとさすがに暑い。正直なところ、7月~9月はここで死者が出ると思う。不要不急の開催を避けて冬にやるべきだった。
工藤親子
 ちなみにこれが事前にボコボコに叩かれていたダモクレスの休憩所だが、実際はすぐ隣がリングなので、リング下で休んだほうがはるかに涼しかった。
 安全性は担保されているということだが、それ以前の問題として根本的に夏に対する危機感が足りない。日差しを避けるという機能を犠牲にして作られたものはデザインとはいえない。国民全体で「日本の夏は災害である」という意識を育てていく必要がある。
 なのでもし「夏になったら岩から水が染み出してめっちゃ涼しくなります!」みたいな機能があったら掌を返す用意があります。

コモンズ
 12時30分、我々は西ゲート付近に戻り、ほぼ待ち時間なしで入れる「コモンズB」へ入館した。コモンズは独立したパビリオンを持たない国のブースが集まる展示場であり、今回の目的を速やかに満たせるよい機会である。
 レイアウトもビッグサイトとかで行われるナントカEXPOみたいな雰囲気になっていて楽しい。
ナウル
 これはSNS適性が高すぎることで知られるナウル共和国の展示品。ナウル共和国を支えたリン鉱石が展示品の礎になっている。
東ティモール
 これは東ティモールの……アッ! これは『アソビ大全』にあるマンカラじゃあないか!? 調べてみたらなんか他にもマンカラを展示している国が複数あるらしく、これは世界がボードゲームのブームを察知しているのかッ!?


 コモンズを出ていったんリング下に避難する。
 事前の情報からワイフが小型軽量の折りたたみイスを入手しておいたのが良かった。リング下にはベンチがたくさん用意されているが、そもそも人が多すぎる。シートを敷いてお弁当を食べる修学旅行生もいた。なので自発的に座れる手段を持っておくべき。
 また前段に反してハウツーめいたことを書いてしまったが、これも普遍的事実です。

 ここからは30分以上並ぶことを覚悟してパビリオンを決めなければならない。
 娘氏はシンガポールを所望したがこれは凄まじい行列で、バーラト(インド)も入館制限中でそもそも並べない。そんなとき我々の耳に、美しい金属音の連なりが響いてきた。
インドネシア館
 インドネシア館! ということは、この音楽はガムランだ! ポップンミュージックで知ってるぞ!
 さらに音楽は屈強な男性ダンサーたちによるシャウトに変わる。これはケチャだ! 聖剣伝説2で知ってるぞ!! 今こそ並べ、インドネシア館に!!

ゲームのおもしろさってゲームの外側に山ほどつまってるはずで、
ゲームは、その宝物を掘りだすシャベルみたいなものなんです。(糸井重里)

『MOTHER2 ひみつのたからばこ』序文
 インドネシアの自然と民俗文化を展示する素晴らしいパビリオンで、建築もリッチでとても良かった。ただ、部族ごとの伝統的な武器が飾られてる廊下を俺以外の人々が続々とスルーしていって温度差を感じた。エッ……男の子って俺だけか!?
インドネシア館
 これは明らかに歯列矯正が必要な能面めいたもの。
 最後にカッコイイ都市の模型があり、特に説明がなかったので確信はないんだけど、きっとこれがジャカルタに変わる新しい首都なんだろうなと納得してパビリオンを後にした。今調べたら新首都はヌサンタラですね。みなさん知識をアップデートしてください。

 インドネシア館、総合していちばん満足度が高いパビリオンであったが、これはたまたまケチャの実演に立ちあえたからという加点が大きい。万博はローグライクである。お前の万博とは一致しない。


こみゃく1970
なんだこれは!
 ミャクミャクやこみゃくのデザインは素晴らしく、どんなものでも万博ナイズできる強みがある。思わずグッズが欲しくなってしまうが、14時30分の段階ですでにお土産物屋さんに長蛇の列ができており、入店するだけで1時間はかかるものと見られたので何も買わなかった。ログインボーナスをこれに使って最初に買いに行く選択肢もないし……。
 なお、ばら撒く系のお土産については新大阪駅でも買えるので、無理に会場内で買わなくても良い。これもたぶん普遍的事実です。


 さて、だいぶ東アジアに偏ったので、次はヨーロッパの風も浴びようとポーランド館に向かった。だいぶ移動ルートに無駄があるが、ローグライクなので仕方ない。
 ポーランド館は内装が非常にオシャレで、案内の人まで含めていかにも東欧の美術館にいそうなモダンな佇まいであった。
ポーランド館
 ポーランドは意外とゲームスタジオが頑張っている。そんな展示もオシャレに設置されていた。

ポーランド館
 なぜかポーランド館の出口のところで、あまりにもデスメタルなひとたちがワークショップを開催しており、世界観が面白いことになっていた。
 どういうこと……? メタルが盛んなのはもうちょっと北じゃないかと思うんだけど……。
 しかもその隣には謎の視聴コーナーがあり、そこのヘッドホンで聴けるのはショパンでもう訳がわからない。デスメタルじゃねえのかよ。俺は美しいショパンの旋律を聴きながら、あまりにもデスメタルなおっさんに従って染め物をする娘氏を見守った。

 ワークショップが済んだらもう16時30分を回っていた。中国館の様子を見に行ったが2時間待ちで、「15時を回ると人気パビリオンが空くケースが出てくる」という情報もあまり期待してはいけないということがわかった。万博はローグライクである。


 休憩し、コモンズCを軽く見たあと、俺は10分程度の列で入れそうなバルト館に向かった。バルト館では現在、来場者によるミャクミャク様の祭壇が建設中であり、俺が行ったときにはいよいよ入口のテーブルが埋まろうとしているところであった。
ミャクミャク様の祭壇
なんだこれは!
 バルト館にはおびただしい量の薬草が壁一面に飾られており、強いテーマ性を感じた。
 ただかなりストイックな展示なので、今後ミャクミャク様の祭壇に喰われてしまわないかちょっと心配になった。

コリア館
 コリア館の外壁。
 どこもかしこもプロジェクションマッピングをする中、韓国はまさかのクソデカ液晶壁を採用しており、しかも最初は壁めいた背景を表示して「なーんだプロジェクションマッピングね……ふーん……」と油断させておいてから突然それが崩れてアンニョンハセヨー!!ってしてくるからチビるかと思った。何インチのモニターなのこれ……この画面でマリオカートしてみない?

 ちなみにこのへんで『ポケモンGO』のポケストップスタンプラリー、およびE・X・P・Oのアンノーン集めが終わった。万博、とても歩くし待ち時間は長いのでポケモンGOに向いているが、向いているからなんだという感がある。

万博夜景
 19時を回り、そろそろ薄暗くなってきたので、ゲート近くにあるセブンイレブンでカロリーを補給してからリング上の散歩を始めた。
 やはり各パビリオンは上から見られることも意識して建設されており、リングを周回するだけでも写真撮影が捗る。だがリング上を歩いていてはパビリオンに入れない。パビリオンに並ぼうと思ったらリング上を歩くことはできない。

 海に向かってリング上を歩く。海側にせり出したウォータープラザは、19時30分からの光と水のショーを見るための人でごったがえしてきていた。だが我々は別にテーマパークに来たわけではないし、ショーがどのようなものかも事前に『世界ふしぎ発見!』がだいたい全部ネタバレしてくれたので興味はない。蚊柱もすごいし。
 なのでライトアップの雰囲気だけ楽しんだあと、人が減ったタイミングを見計らって北欧館にジョインした。

北欧館
 北欧館は国旗の似ているアイスランド・スウェーデン・デンマーク・ノルウェー・フィンランドが共同で運営するパビリオンである。
 中身はSDGsとプロジェクションマッピングでわりと他でも見た体験であった。お前たちこそデスメタルでポーランドと戦うべきではないか。だが高級なイスとノルディックな雰囲気はとても心地良かった。

万国旗
 さて、ショーが終わって人が押し寄せてくるであろう前に帰路についたほうが良いだろう。時間が読めず、西ゲートからのバスは予約しなかったため、エキスポライナーは使えない。東ゲートの夢洲駅から地下鉄を乗り継いでホテルに帰ることにした。
 混んではいたが、地下鉄はそれ以上に車両の数がすごく、大阪府が官民一体となって人員輸送にガチっていることが見て取れた。


 ところで、エキスポライナーで万博会場のある埋立地に行くと、どうしたってあのユニバーサルスタジオジャパンの隣を通ることになる。そう……あのニンテンドーワールドが設置された、巨大テーマパークだ……。これをスルーしていくのはなかなかツラいが、両方行くのはもっとツラい。どうなる次回!!
 
 後編へ続く。
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